『黒と茶の幻想』
再び、木製ハードルを跨ぐ行程が始まる。うんざりしつつも、やはり目に見えて身体は適応していた。肉体とはなんとけなげなことだろう。なんと素早く環境に対処することだろう。身体を持ち上げる時に、かすかな快感すら覚えるようになる。汗まみれの身体。頭の中に、ハアッハアッという自分の呼吸の音しか聞こえない。自分の身体を運ぶというシンプルな行為。呼吸する袋になったような気がして、意識も雑念も記憶も、全てが空っぽになる。足を上げる。木の根を跨ぐ。身体を持ち上げる。足を揃えて着地する。空から誰かがあたしが登るところを見下ろしているような気がした。それはきっと、あたしの意識があたしの身体から抜け出してあたしを見ているのだ。夫の生死も、病院の領収書も、子供たちの姓も、休暇前に話しかけた部下も、何もかもどこかへ飛んでいってしまっている。ここにあるのは本間節子という動物の身体だけ。この動物は、ひたすら上に行くことだけが今の最大の望みなのだ。今、神様が「何か一つ望みをかなえてやる」と言ったら、とっととJ杉のところまで連れていってくれと頼む。肉体の苦痛の極限にいながらも、あたしはこの時間、何からも自由だった。
(『黒と茶の幻想』から抜粋)
この小説に貫かれている最大テーマは、上の抜粋した箇所とは違うんだけど、チョッと私的にひっかかったのがこの頁。
かなりクライマックスの部分なんだけど、思わず本を閉じて関係ないことに思いを馳せてしまいました。
やっぱアシュタンガヨガって悪くないなぁ、と。
唐突ですか?
ここの箇所ってなんだかアシュタンガを連想させません?
今さらアシュタンガに転向する気はないけど(無理だし。ww)
最近ことあるごとにアシュタンガの良さを認識してます。
で、ビンヤサヨガにおけるインストラクターの自己満足&自己完結の危険性をチラチラ感じて、あれこれ考えをまとめ直してます。
ちなみに『黒と茶の幻想』はヨガとは全く関係ありません。
久々に600頁余の大作を一気読みしました。
9月 29, 2008 ヨガ(あるいはヨガ的なもの) | Permalink





コメント
先日、ACOさん
からアシュタンガは修行・・と聞いてヨガでありながら、全く違うメソッドのものだと思いながらも、互いに追い詰めるようなことが無いヨガだと思うし、負にはならないので、最近、アシュタンガヨガに出るようにしてます。だからこそアシュタンガの良さも分かったような気がしますし、ACOさんのビンヤサフローの良さも分かる気がしました
投稿: AKI | 2008/09/30 0:32:11
そうかー、ACOさんはこの下りでアシュタンガを連想するのですね〜。私には、まんま山を走っている時の自分が重なりました。もうどうにかなってしまいそうで、最後は呼吸あるのみ、誰かが足と手を動かしているみたいな変な鳥瞰の物体感。とはいえ、あたしは何やってんだ?と思いながらも山を走る私は、もしかしてアシュタンガ向きなのでしょうか〜(笑。いや、そんなことないなーー)
投稿: norimix | 2008/09/30 1:10:31
AKIさん、そうですね。色々なスタイルのヨガを分け隔てなく楽しんでいるAKIさんの姿勢は見ているこちらまで幸せになります♪
それとは別に、毎日マイソールにいそしんでアシュタンガの道(だけ)を極めていく人々にも以前とは違った視線で理解と興味をおぼえています。
またアシュタンガ以外でも、シバナンダやビクラムヨガなどを含め、決まったポーズ、決まったシークエンスをやり続けるという事に意味を見出している今日この頃なんです。なぜだか。笑
投稿: ACO | 2008/09/30 2:28:06
norimixさん、だって私はnorimixさんと違って山を走る経験なんてありませんから。笑
やはり経験者にはこの文章のくだりは非常に共感するのでしょうね。自然の中で自分の身体を酷使している最中によぎる思い、達成した後に沸き上がる実感。私には未知の世界です。まだ足腰がかろうじて丈夫な内に体験しておいた方がよさそうな・・・っても、とりあえず山を「歩く」でしょうね。norimixさんのように山を「走る」のは無理!
norimixさんならアシュタンガでも何でも流派に関係なく、たまたま出会ったスタイルの中でなにがしか自分らしい気づきを得られそう。でもやはりS的なモノの方を自然と求めそうな感じも。笑
投稿: ACO | 2008/09/30 2:35:14
黒と茶の幻想なんて、どんな幻想なんだろうー??????って
タイトルからしてココロ鷲掴み。
文章読みながら、あー、ACOさんいってしまった。
と思いつつ、アタマは黒と茶。そしてちょー鳥肌。
このくだりだけで、腰砕けましたよ。
私は体育館くらいの床一面に色塗りしている感覚でしたよ。
この本はおもしろかったですか?
10月はヨガいきたい。
投稿: iqa+ | 2008/10/01 1:28:01
我が尊敬するアーティストのiqa+ さん、いやコレはあくまで作者の恩田陸の頭の中で勝手に決まったタイトルでして、この小説の中身からどう黒と茶が幻想しちゃうのか、私のような凡人にはよく分かりません。笑
でも小説自体はむちゃくちゃ面白かったです。回想シーンを折り紡いたパラレルワールド、めくるめくストーリー展開です。そして黒と茶ではありませんが、舞台設定からダイレクトに、また行間から想いにのって、森の色の洪水です。息苦しくなるほど、むせぶほど色を感じられます。絢爛豪華な色ではなく、iqa+ さん好みの色だと思います。もうぜひぜひ読んでください!
投稿: ACO | 2008/10/01 2:51:28
先月、MOT+で『パラレルワールド』というタイトルのエキシビジョンをやっていたのですが、なにがパラレルなのか理解できず、ふがふがふがーって。でもかなり楽しいエキシビジョンでした。
今回の恩田さんワールドもMOT+のパラレルワールドも、
だれとマッチするのか、どんな風にパラレルになるのかは
どうでもよくて、見た人がどう観じるのかなんでしょうね。
最近小説(長い文章)を読んでいないので、久しぶりに読んでみようかな。タイトル買いですね(笑)
昨日から茶と黒に神経が前ナラエですよ。
投稿: iqa+ | 2008/10/02 2:12:35
iqa+さん、MOT+へ行かれたのですか☆
小説、私もずっとご無沙汰気味でした。最近ようやく遠近両用眼鏡デビューしてまた読みたいなと。まずは漫画の『二十世紀少年』全巻一気読みから再開(笑)。読み物に関してはパラレルワールド系大好物なんです。昔の村上春樹の『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』とか、奥泉光の『葦と百合』とか。
私はiqa+さんのsage pasteを見てから、青緑と乳白に神経が前ナラエです。
投稿: ACO | 2008/10/02 7:38:20